もうかれこれ30年以上インドネシアに住んでいるので、インドネシアはもう隅々を旅行していると思われることがあるが、実はまったくそんなことはない。アチェにも、トラジャにも、パプアにもまだ行ったことがない。本当は、毎年一ヶ所でもいいから、行ったことがない場所に足を運びたいのだが、コロナ以降、離島への航空券が非常に高くなっていることもあって、なんとなく足が遠のいている。時間と予算が限られた中で確実に楽しもうとすると、ついバリばっかりになってしまったりする(それはそれで楽しいのだが)。
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もうすぐラマダンからの断食明け大祭休暇でもあるし、今回は、これまで旅した中で特に印象的だった場所をご紹介したい。
まずは東ジャワのブロモ山。
満天の星が煌めく暗い内から宿を出て、日の出ポイントを目指す。日本の冬ばりに寒い中、じっとその時を待つ。たくさんの人が日の出を見ようと丘に集まってきているが、私のお気に入りは、ある程度太陽がのぼり、みんながその場を離れ始めてもしばらくそこにいて、静かになるのを待つこと。太陽が山肌を照らし、下の方の霧がどんどん晴れていく様子を静かに楽しむことができる。冷え切った体が温まってきて、太陽のありがたみを実感する。
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中部カリマンタン、タンジュンプティン国立公園のオランウータンツアー。写真のボートは一台貸切、ここで2泊3日間寝泊まりし、食事もとる。右の写真は我々が使うスペースで、この下に船長さん家族がいて、煮炊きもしてくれる。川沿いに点在するキャンプを訪れ、そのエリア内に住むオランウータンたちの食事風景を見る。
2日目の夜はニッパ椰子が生い茂るエリアで停泊。舞い踊る蛍を眺め、金子光晴も同じ風景を見たんだろうなと思いを馳せた。川の旅があまりにも快適で、終わってしまうのが寂しかった。
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スラウェシ島の南にあるスラヤール島。道路が通っていない宿まではボートで移動。コテージの後ろまで迫ってきている森では、運がよければタルシウス(世界最小のメガネザル)に会えるという。私が行った時には、海岸を野生の猪が駆け抜けて宿泊客たちが騒然とするという事件があった。もうだいぶ前(10年くらい)なので今はどうなっているかわからないが、電波が全く入らないので本当に自然にどっぷり浸かることができる。周りに別の宿やレストランがあるわけでもないので食事に若干の不安はあったのだが、フランス人が経営する宿だけあって、ちょっとフランス料理っぽいメニューもあったりして、毎回おいしく非常に満足した。(https://www.instagram.com/selayar.eco.resort/)
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スンバ島。長いこと行っていないが、最近はおしゃれなホテルやレストランもどんどん増えているようだ。青い海、見渡す限りの草原。とにかく自然がすごすぎて、どんな語彙でも表現し尽くせない。写真は「パソラ」という伝統行事を見に行ったときのもの。西スンバの村の男たちが、馬に乗って木の槍(尖ってはいない)を投げ合う荒々しい祭り。
西スンバの伝統家屋が並ぶ村落、東スンバの織物(イカット)も素晴らしい。
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西ティモールの、限りなく東ティモールに近いところに位置するフランフェハン(Fulan Fehan)。作家Okky Madasariは小説『Mata di Tanah Melus』において、このフランフェハンで不思議な世界に迷い込んでしまった少女の物語を綴っている。私たちが行った時も突然濃い霧に包まれて方向を見失い、霧が晴れた頃にはもう全然違うところにいるんじゃないかと、ドキドキしながら娘の手をしっかり握った。
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やっぱりインドネシア、最高。
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<武部洋子> 東京生まれ。大学で第二外国語としてインドネシア語を選択して以来、インドネシアにどっぷりはまる。1994年に卒業と同時にジャカルタに移住、2013年にはインドネシア国籍を取得。職を転々としたのち、現在はフリーランスのライター、コーディネーター、通訳/翻訳業に従事している。著作に『旅の指さし会話帳②インドネシア』(株式会社ゆびさし)など。
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