今月1日(木)から西ジャワ州プルワカルタ県の第9武装大隊第1スティラ・ユダ野砲連隊で子供への人格教育プログラムが開始された。西ジャワ州のデディ・ムルヤディ知事の発案によるもので、軍隊教育をベースとした人格形成とされているが、その在り方が議論の的になっている。
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デディ知事によると、いま多くの親が“扱いにくい”子供への対応に悩まされ、ストレスの種となっている現状で、多くの親が軍隊式の人格教育プログラムに子供たちを参加させたいと考えているという。「何か問題を起こしても、刑事処分を受けないまま、非行が止まらない子供がたくさんいる。最終的には親の元に戻らざるを得ないが、問題は親がもはや耐えられなくなっているケースが多いことだ。頻繁に学校を休んだり、中毒的にゲームを続けたり、バイクに乗ったり、タバコを吸ったりするのをやめさせることができなくなった時、親は打つ手が見つからず途方に暮れる」とデディ知事は述べ、この人格教育プログラムはもはや子供を教育することができなくなった親たちを助けることを目的としていると強調した。
実際にこの人格教育プログラムは、素行が悪く親が教育できなくなった子供のみが対象となる。生徒たちは軍の兵舎で6か月間の教育を受けることになり、軍隊式のアプローチを通じて規律や責任感、高潔な人格を身につけさせ健全な生活を送るように改心させることが目的である。そのため、犯罪行為が認められた子供については、プログラムには参加せず、少年司法を経て刑事処分を受けるとしている。
しかし、効果的な人格形成と称して行う教育が、軍隊式洗脳と紙一重なのではないかという大きな懸念もある。軍事的手法を選択したのは、軍隊の世界に内在する構造、規律、忠誠の価値観の育成が、これらの生徒の人格形成に良い影響を与えるという仮定に基づいている。しかし、クリティカルシンキングと自立心の育成を目指す子供への人格教育の本質が、権威への盲目的な服従や危険な忠誠心とならないようにする注意が必要である。確かに軍隊式の規則正しい生活は、人生のさまざまな場面で組織的で責任感のある人格を育むための重要な基礎となる。そして、仲間を助けるための自己犠牲精神やチームワーク、決断力を伴うリーダーシップなど将来に役立つ思考も学べるだろう。しかし、今回の人格形成プログラムの根幹は、非行に走る子どもたちの改心や健全な心身育成である。大人の考える「普通」の水準に達していない子どもたちの胸に、厳しさ一辺倒の軍隊教育が刺さるのか。学校のカリキュラムに沿って1日2時間の勉学時間を設けるとしているが、はたしてそれで足りるのか。それらのリスクも含めきちんと精査されたプログラムなのかは疑問が残る。
この計画は、西ジャワ州内において必要だと考えられる地域で今後段階的に実施されるらしい。州内で徐々に広がり、他の州での導入まで考えているのであれば、多少の事に目をつぶってでもプルワカルタでの第一陣を“成功”にするだろう。だとすれば、必要以上に力が入っているかもしれない。役人のお家芸で捻じ曲げられた成果など枚挙にいとまがない。時代も違えば国も違うので単純に比較はできないが、考えうる最悪の結末は一緒だろう。日本でかつて大きな問題となった某ヨットスクールのようなことにだけはならなければいいが、という思いは杞憂だろうか。
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<大塚 玲央>
1987年長野県生まれ。親の仕事の関係で幼少より転校を繰り返し、高校時代はシンガポールで過ごす。大学卒業後、放送局や旅行代理店勤務を経て現職。2011年よりインドネシア在住。趣味ゴルフ、野球。
大塚 玲央 メールアドレス:reo.fantasista@gmail.com
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